#132 映画「パーフェクトデイズ」ネタバレ感想編:つまらない面白くない派と割と好き派が互いの意見をぶつけてみる
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*警告:映画に対して好意的でない発言もありますので映画「パーフェクトデイズ」のファンの方はその点十分ご注意ください*
今日は、役所広司さん主演、ヴィム・ヴェンダース監督の最新作「パーフェクトデイズ」のネタバレ感想をお届けします。どうぞよろしくお願いします。
さて、今回はネタバレ感想と言っても、この映画ってそもそも「ネタバレ」って概念があるのかどうか、という点も含めて話していこうと思います。というわけで、まずはあらすじをさらっと。
映画本編はこちら
目次
あらすじ
舞台は東京・渋谷。主人公・平山(役所広司)はトイレ清掃員として働き、静かで淡々とした日常を送っています。毎日同じ時間に目覚め、同じように支度をし、同じルーチンで働く。けれども、彼にとってはどの日も同じではなく、毎日が新しい一日として過ぎていきます。木々のこもれびに目を細め、日々の中に美しさを見出す平山。しかし、そんな彼の静かな日常に、ある出来事が小さな波紋を広げ、彼の過去にわずかに触れることに…。
この映画、公開から1ヶ月ほど経っているんですが、私も少し遅れて観に行きました。予告編は以前から観ていたんですが、「おじさんの日常」って感じで、他の派手な映画に惹かれてしまっていたんですよね。
とはいえ、役所広司さんが賞を受賞したことや、アカデミー賞の国際長編映画賞にノミネートされていたこともあって、「やっぱり何かある映画なんだろう」と思い、やっとのことで鑑賞しました。
映画の評価は分かれる?
さて、実際に観た感想ですが…。まず、個人的に結構驚いたのは、友人がこの映画に対して全く合わなかったと言うことでした。意外だったんです。というのも、私は割と好きだったんです。
もちろん好みが分かれる映画だと思うので、ここで「つまらない派」と「面白い派」の意見をそれぞれ紹介しながら、両者の考えを比べてみましょう。
「つまらない派」の意見
友人が言うには、この映画は「めちゃめちゃよくできた自主映画」みたいだと。特に、テーマとして描かれているものがインディーズ映画っぽい印象を受けたそうです。確かに役所広司さんの演技やトイレ掃除、植物を愛でるシーンなど、日常の細かいディテールは好きな要素がたくさん詰まっていたのに、それが薄く感じてしまったと言っていました。もう少し物語に深みが欲しかったんじゃないかと感じたそうです。
「面白い派」の意見
一方、私の意見としては、むしろその「薄さ」や「余白」がこの映画の魅力だと感じました。説明の少ないセリフや、淡々と進む日常の描写こそが、この映画の特別さを際立たせているように思えました。
映画全体が、まるで「禅」や「東洋思想」の一部のように静かで瞑想的で、何も起こらない日常にこそ美しさがある、というメッセージが伝わってきました。
なぜ評価が分かれるのか?
では、なぜこの映画に対する評価がここまで分かれるのでしょうか?
一つの理由として考えられるのは、監督が外国人であるという点です。ヴィム・ヴェンダース監督が描く日本の日常は、私たち日本人が感じるものとは少し違った「異邦人の視点」が含まれているのかもしれません。
例えば、私たちが海外旅行に行って、その国の文化を完全に理解するのが難しいように、監督もまた、表面上は理解しているけれど、その深層までは捉えきれていない部分があるかもしれません。
それでも、この映画が海外で評価されているのは事実ですし、逆にその「異邦人の視点」がこの作品の魅力として捉えられているのかもしれません。
映画「パーフェクトデイズ」の魅力
『パーフェクトデイズ』は、平凡な日常がふとした出来事で揺さぶられる男性の物語です。渋谷でトイレ清掃員として働く平山(役所広司)は、毎日を同じように過ごしているようで、実際には日々異なるものを感じながら生きています。彼の内面には、孤独や失望が潜んでいるように見えますが、美しい木漏れ日や日常のささやかな喜びを見出しながら静かに過ごしています。
映画は、説明的なセリフをほとんど使わず、映像と演技で物語を語ります。役所広司さんの静かで抑えた演技が、平山の内面の複雑さを見事に表現しており、観る者に深い感情を呼び起こします。
一方で、この作品にはいくつかの批判もあります。世界観が現実離れしすぎていると感じる人もいれば、平山というキャラクターが捉えきれないという声もあるでしょう。また、彼の女性関係や仕事についての描写が少ないという指摘も聞かれます。
しかし、この映画には多くの解釈の余地があります。平山が現実から逃避し、自身の理想的な世界を創り出している可能性も考えられます。彼の孤独や失望が、彼の想像の中で表現されているのかもしれません。
美しい東京の風景や役所広司さんの見事な演技は、この作品の大きな魅力の一部です。この映画は観る人によって評価が分かれるかもしれません。物足りなさを感じる人もいるかもしれませんが、その独特な世界観に浸りたい人にとっては、十分に価値のある作品でしょう。
『パーフェクトデイズ』は、現実と夢の狭間で揺れ動く男性の心の葛藤を描いた作品であり、観る者にさまざまな考えを巡らせるきっかけを与えてくれます。
ちなみに、最近この映画のサントラをヘビロテしています。
劇中で平山が聞いていた音楽3選
劇中に登場した曲の中から、特に強烈な何度も聞きたい返したくなる象徴的な3曲ピックアップします。
公式音源がYoutubeにあれば貼り付けておきます。
1曲目:「パーフェクト・デイ」
まずは、タイトルと同じ曲名「パーフェクト・デイ」(Perfect Day)。1972年のルー・リードの曲。
2曲目:「朝日のあたる家」こと「House of the rising Sun」
次に、冒頭から劇中何度も登場するのは「House of the rising Sun」。
飲み屋の女将(石川さゆり)が同じ曲の翻訳版「朝日のあたる家」を歌うシーンも強烈でした。
3曲目:ニーナ・シモンの「feeling good」
最後に、映画終盤の長回しシーンで流れている曲。
ニーナ・シモンの「feeling good」
映画史に残りそうな素晴らしいシーンでした。
劇中で平山が読んでいた文庫本3選
劇中平山が読んでいた本を3冊紹介します。版が異なるのもありますが、ご了承ください。
1冊目:「野生の棕櫚」
棕櫚は「シェロ」と呼び、ヤシの木の一種。木々を愛する平山らしいタイトルです。
【公式紹介文】
『野生の棕櫚』(やせいのしゅろ、原題:The Wild Palms )は、アメリカ合衆国の小説家ウィリアム・フォークナーの南部ゴシック小説である。
1939年に発表された。二つの物語が交錯する二重小説で、ひとつは医師である中産階級の白人男女が不倫、妊娠、堕胎のすえ、悲劇的な結末を迎える話が語られ、もうひとつは囚人である貧しい南部人が洪水に巻き込まれ、妊婦を救い、出産を助け生還する話が語られる。
「悲しみ(grief)と虚無(nothing)しかないのだとしたら、ぼくは悲しみのほうを取ろう。」
1937年:人妻シャーロットと恋に落ち、二人の世界を求めて彷徨する元医学生ウイルボーン。(「野生の棕櫚」)
1927年:ミシシピイ河の洪水対策のさなか、漂流したボートで妊婦を救助した囚人。(「オールド・マン」)
二組の男女/二つのドラマが強烈なコントラストで照射する、現代の愛と死。
2冊目:幸田文の「木」
読んだことはなかったですが、幸田文の父は幸田露伴。
「五重塔」や「運命」で知られる明治の大文豪で、同級生の正岡子規が強い憧れを持っていたことでも有名です。
【公式紹介文】
木々草花を愛(め)でる心こそ、財産である
樹木を愛でるは心の養い、何よりの財産――。父露伴のそんな思いから著者は樹木とともに育てられた。そして木々をいつくしみ、愛でることのできる感受性を持つ大人へと成長した。
著者が娘を持つようになったとき、この娘の周囲に木々草花の存在はなくなっていた。露伴は著者に、子を連れて植木市にいき、そこで彼女の気に入ったものを買い与えよと小銭入れを渡した。果たして子は、市で一番高価で立派な鉢植えの藤を選んだ。父露伴から預かった小銭ではとても贖えるものではなかった。次に選んだものは山椒の木だった。
山椒の木をもって帰宅すると、事情を知った父露伴はみるみる不機嫌になった……。
「多少値の張る買物であったにせよ、その藤を子の心の養いにしてやろうと、なぜ思わないのか、その藤をきっかけに、どの花をもいとおしむことを教えてやれば、それはこの子一生の心のうるおい、女一代の目の楽しみにもなろう、もしまたもっと深い機縁があれば、子供は藤から蔦へ、蔦からもみじへ、松へ杉へと関心の芽を伸ばさないとはかぎらない、そうなればそれはもう、その子が財産をもったも同じこと、これ以上の価値はない(略)」
3冊目:パトリシア ハイスミスの「11の物語」
劇中言及されるのは「すっぽん」という話で、支配的な母親と暮らす少年が、食用に買ってきたすっぽんをきっかけに爆発してしまう物語です。
【収録短編】
かたつむり観察者/恋盗人/すっぽん/モビールに艦隊が入港したとき/クレイヴァリング教授の新発見/愛の叫び/アフトン夫人の優雅な生活/ヒロイン/もうひとつの橋/野蛮人たち/からっぽの巣箱
【公式紹介文】
動物学教授のクレイヴァリングはひとり南海の孤島へ船出した。伝説の巨大かたつむりを見つけ、歴史に名を残そうというのだ。だが運よく発見には成功したものの、船が流され、彼は島でたったひとりに…。
孤立無援の男を襲う異常な恐怖を描く「クレイヴァリング教授の新発見」他、人間心理の歪みが生みだす恐怖と悪夢に彩られたサスペンスの鬼才の傑作短篇集。
【著者情報】
ハイスミス・パトリシア(Highsmith,Patricia)
1921年テキサス州フォート・ワース生まれ。父はドイツ系、母はスコットランド系だった。ニューヨークで育ち、バーナード・カレッジを卒業。1945年に雑誌に発表した「ヒロイン」で作家デビュー。1950年の『見知らぬ乗客』、1955年の『太陽がいっぱい(リプリー)』がいずれも映画化されたことで人気作家となった。『太陽がいっぱい』でフランス推理小説大賞を、『殺意の迷宮』(1964年)で英国推理作家協会(CWA)賞を受賞している。生涯の大半をヨーロッパで過ごし、晩年はスイスの山中に暮らしていた。1995年死去
プラスαの関連書籍として、switchでパーフェクトデイズの特集が組まれました。
まだ買えるいたいなので、絶版になる前にどうぞ!
類似作品としての「アバウトタイム」と「アフロ田中」
冒頭の動画内でも触れていますが、パーフェクトデイズが好きなひとは、「アバウトタイム」と「マイホーム アフロ田中 第24話」も好きだと思います。
日々に喜びを感じる系譜の作品としてオススメいたします。
まとめ
「パーフェクトデイズ」は、日常の美しさや喜びを静かに描いた作品です。つまらないと感じる人もいれば、その淡々とした日常の中に感動を見出す人もいる。まさに観る人によって感じ方が大きく変わる映画と言えるでしょう。
映画の中に映る影や光、そして名前のない人々の存在。それらは観る人にとって大きなテーマとして提示されているのです。
個人的には、観て良かったと思える映画でした。皆さんもぜひ、自分自身でこの映画を体験してみてください。そして、その感想をシェアしてもらえると嬉しいです。
次回のブログ記事もお楽しみに!