#190 映画「28年後...」ネタバレ感想編:ゾンビ映画の皮を被ったビルディングロマンス?!少年の成長譚×サバイバル×人間ドラマの傑作
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皆さん、こんにちは!
今回は2025年6月20日公開の最新作、『28年後...』について徹底的に語ります。あの『28日後...』『28週後...』に続く、シリーズ第3作目にして、ゾンビ映画の新境地とも言える注目作です。
目次
シリーズの歩み:『28日後...』から『28年後...』へ
すべては2002年の『28日後...』から始まりました。未知のウイルスにより人々が“感染者”と化した絶望の世界を描いたこの作品は、走るゾンビという革新と、ダニー・ボイル監督の演出によって、ホラー映画に新たな命を吹き込みました。
続く2007年の『28週後...』では、感染の再拡大と人間ドラマを描き、そしてついに本作、『28年後...』が登場。舞台は“あのパンデミック”から28年後、もはや“終末が日常”となった世界です。
あらすじ:父と息子、そして孤島から始まる旅
舞台は、ゾンビ感染拡大後に人類が逃げ込んだ孤島。武器と見張り台に囲まれ、わずかな平穏を手にしていた人々の中に、主人公ジェイミーと12歳の息子スパイクがいます。
島から一度も出たことのないスパイクは、病気の母のために「本土の医者を探す」という目的で、父とともに危険なゾンビ地帯へと足を踏み入れます。
しかし本土は、想像を超える荒廃と狂気に満ちた場所。父と息子は、ゾンビよりも恐ろしい“人間”の本性に触れていくことになります。
ドラマ性の深化:少年の成長と“親離れ”
ゾンビ映画ながら、物語の本質は「少年の成長譚」にあります。
少年スパイクは、病に倒れる母と、秘密を抱えた父との関係に葛藤しながら、旅の中で精神的に自立していきます。ゲームで例えるならば、村から外に出て世界の現実を知り、自らの意志で冒険を進めていく――まるでドラクエ5のような構成です。
母親の病状は深刻で、認知症のような症状が出はじめ、旅の果てに見つけた医者(演じるのはレイフ・ファインズ)から「彼女はがんで助からない」と告げられます。
スパイクは、最後まで希望を捨てず、母と向き合い、やがてその死と向き合うことになるのです。
父親役は“クイックシルバー”、医者役は“ヴォルデモート”!
キャストも豪華で話題です。父ジェイミー役には、MCUのクイックシルバー役で知られるアーロン・テイラー=ジョンソン。10代の頃は『キック・アス』の主人公だった彼が、今作では“父親”という重たい役割を演じているのが実に感慨深い。
医者役には、あの『ハリー・ポッター』シリーズのヴォルデモート役で知られるレイフ・ファインズ。静かでミステリアスな彼の存在感が、終盤の雰囲気を一層深くしています。
「ゾンビ映画」ではなく「人間映画」
この映画が評価されている理由は、“ゾンビ”を単なる脅威ではなく、背景として扱っている点にあります。
本当に描かれているのは、「親子の断絶と再生」「大切な人の喪失」「自分の意志で歩み出す成長」といった人間の普遍的なテーマです。
さらに、島の人々と本土の“新人類”の衝突には、どこか『機動戦士ガンダム』のような「異なる文化圏で育った者同士の対立と融和」を感じさせます。
衝撃の終盤:母の死、赤ん坊の誕生、そして旅の継続
物語の終盤では、母親が医者によって安楽死を迎えます。ゾンビ映画でここまで静かに“死”を描くのは異例と言えるでしょう。
さらに、少年は途中で出会った“妊婦のゾンビ”が出産した赤ん坊を抱き上げ、島へと送り返すというエモーショナルな展開も。そして自らは、母の死を乗り越え、何かを探すために一人で本土を歩き始めます。
ラストシーンと続編『The Bone Temple』への布石
少年がゾンビに襲われそうになる最後のシーン。彼を救ったのは、“都会的な若者たち”。
その姿に、これまでとは異なる社会構造、異文化を感じさせ、明確に「次回作が始まる」と観客に伝える演出です。
次作のタイトルは『ザ・ボーン・テンプル(The Bone Temple)』。劇中でも登場した「骨の塔」や、医者が作っていた無数の墓が、新たな謎と物語の鍵を握っているようです。
三部作としての完成度と期待感
この『28年後...』は、三部作の第1部。
第2部では都市部での冒険、第3部では育った少女が再登場する――そんな構成が予想されています。
「ゾンビ映画=グロと恐怖」と思っている人ほど、本作で価値観を覆されるはずです。感情の深さと、映像の美しさ。人間の希望と弱さを描いた、まさに“生きる”映画と言えるでしょう。
ラドヤード・キプリング 「ブーツ」歌詞
予告編と本編で印象的に使われる詩が登場しますが、出典はラドヤード・キプリング 「ブーツ」でした。
第二次ボーア戦争(1899–1902年)中のイギリス歩兵の過酷な行進体験を詠んだ作品らしいです。
ラドヤード・キプリング 「ブーツ」
We're foot—slog—slog—slog—sloggin' over Africa
Foot—foot—foot—foot—sloggin' over Africa --
(Boots—boots—boots—boots—movin' up and down again!)
There's no discharge in the war!Seven—six—eleven—five—nine-an'-twenty mile to-day
Four—eleven—seventeen—thirty-two the day before --
(Boots—boots—boots—boots—movin' up and down again!)
There's no discharge in the war!Don't—don't—don't—don't—look at what's in front of you.
(Boots—boots—boots—boots—movin' up an' down again);
Men—men—men—men—men go mad with watchin' em,
An' there's no discharge in the war!Count—count—count—count—the bullets in the bandoliers.
If—your—eyes—drop—they will get atop o' you!
(Boots—boots—boots—boots—movin' up and down again) --
There's no discharge in the war!We—can—stick—out—'unger, thirst, an' weariness,
But—not—not—not—not the chronic sight of 'em,
Boot—boots—boots—boots—movin' up an' down again,
An' there's no discharge in the war!'Taint—so—bad—by—day because o' company,
But night—brings—long—strings—o' forty thousand million
Boots—boots—boots—boots—movin' up an' down again.
There's no discharge in the war!I—'ave—marched—six—weeks in 'Ell an' certify
It—is—not—fire—devils, dark, or anything,
But boots—boots—boots—boots—movin' up an' down again,
An' there's no discharge in the war!Try—try—try—try—to think o' something different
Oh—my—God—keep—me from goin' lunatic!
(Boots—boots—boots—boots—movin' up an' down again!)
There's no discharge in the war!
ジョゼフ・ラドヤード・キップリング(1865-1936年)は、イギリスの詩人・小説家・短編作家。
帝国主義時代の英国文学を代表する人物で、代表作の一つにはディズニーで映画化もされた『ジャングル・ブック』があります。
まとめ:ゾンビの皮をかぶった人間ドラマの傑作
『28年後...』は、ホラー・サバイバル・SF・人間ドラマ、全ての要素を兼ね備えた、近年稀に見る傑作です。
単なるパニック映画ではなく、“少年の旅立ちと成長”という物語の核があるからこそ、観終わったあとに心に残る。
ぜひ、劇場でこの壮大な旅のはじまりを体験してみてください。あなたの中の“ゾンビ映画”の定義が、きっと変わるはずです。