#210 漫画『住みにごり』第9巻ネタバレ感想編:末吉の崩壊、兄弟の歪な関係、そして迫る親父の影
皆さん、こんにちは。本日もよろしくお願いします!
今回は、約半年ぶりとなる漫画『住みにごり』の最新刊・第9巻(2025年12月発売)の感想をお話しします。今回も非常に面白く、物語はまた新たな佳境を迎えています。
目次
8巻の振り返り:末吉・フミヤ兄弟の危機的関係
前巻(8巻)の終盤では、兄・フミヤが外へ出ていくという、彼にとっては異例の行動が描かれました。
弟の末吉は精神的に限界に達し、兄との関係がさらなる不穏さを迎えたまま終わりました。
このあたりから「兄弟の関係が変わる兆し」が描かれていました。
9巻の展開を動かす三つの要素
9巻では、以下の三つの軸が物語を推進します。
- フミヤと柊凪兄妹との接触—初めて見える“他者との会話”
- 末吉の精神的な崩壊とフミヤとの関係変化
- 不在だった父親の帰還匂わせ
※今回は話を整理するため、並行して進む「追い出し屋」の展開については割愛します。

1. フミヤと柊凪兄:異常な空間で生まれた“対話”
物語は、フミヤが外部の家の前に立っていたところから始まります。
フミヤはそのまま一晩中立ち続け、朝、ゴミ出しに来た柊凪(ひなぎ)さんの兄(柊凪兄と呼びましょう)に見つかり、家に入れてもらいます。
柊凪兄はフミヤを自分が引きこもっていた部屋に連れて行きます。その部屋は、足の踏み場はあるものの雑然としており、壁にはポジティブな言葉が大量に書き込まれていました。
フミヤはビデオ棚を勝手に漁ったり、ベッド下を覗いたりと、相変わらずデリカシーゼロの行動を取りますが、柊凪兄は「なぜポジティブな言葉を書いたのか?」というフミヤの問いに対し、内面を語り始めます。

「とにかく何かを変えなきゃと思って、もがいた結果だ」
「どんな状況になっても妹(柊凪)が全力で肯定してくれたから、変わろうと思えた」
ここで注目すべきは、フミヤが明確な吹き出しのセリフで相手に問いかけること。
普段ほとんど喋らない彼が、対話をしようとしている。
フミヤは土産に凪兄のCDプレイヤーを借りて帰路につきます。
このシーンは本作でも稀な、フミヤが“人間”として描かれた瞬間のひとつであり、一瞬の温かさすら感じます。

2. 末吉の崩壊と、兄への“恐怖の変質”
一方その頃、弟の末吉は限界を迎えつつあります。
兄の部屋にため込まれていた炭酸飲料を、末吉は次々と捨て始めます。
それを見たフミヤは、初めて純粋に驚いたような表情を見せます。これまでのフミヤの表情とは全く異なる、新しい一面が描かれました。
この出来事をきっかけに、末吉とフミヤの関係は大きく変化します。
フミヤは相変わらず暴力を振るうのですが、末吉は以前のように恐怖におびえる姿ではなくなります。末吉は反撃し、フミヤを煽るような行動もとるようになり、二人の間では凄惨な喧嘩が繰り広げられます。

喧嘩するほど仲が良い?
これは、末吉がフミヤを理解し始めた結果だと考察できます。末吉は、「フミヤが何をしたら怒るか」が分かってきたからこそ、もはや過度な恐怖を抱かなくなったのではないでしょうか。
末吉はフミヤの怒るポイントを理解し始め、反撃や挑発すら行う。
これは「恐怖の麻痺」ではなく、“理解が進んだ結果の対等性”とも読み取れます。
「戦争は外交の一手段」という言葉があるように、兄弟喧嘩もある種のコミュニケーションととらえる事ができます。
この兄弟喧嘩は表面上はマイナスですが、ある種の「コミュニケーション」と考えれば、初めてまともに意思疎通ができるようになった瞬間とも言えます。

3. 不在だった父親の影、そして母との最後の言葉
9巻の後半、物語は「父親の帰還」へ向けて急速に動き始めます。
末吉とフミヤが衝突し、姉の長月も家に集まる中、
何気なくつけたテレビに、踊っている父の姿が映し出されます。
末吉はその姿に激しく反応し、家族の空気は一気に不穏へ。

第87話「母子」
そして、9巻のクライマックスとなるのが、第87話「母子」です。
この回では、認知症のお母さんの心象風景が描かれます。
混濁した意識の中で、お母さんは末吉がまだ幼かった頃の記憶をフラッシュバックさせます。
一緒にドーナツを作ったり、雛人形を出したり、末吉にスカートを履かせてふざけたりといった、ささやかな日常の記憶です。この描写は非常に丁寧に描かれており、母からの深い愛情と、その愛情に応えようとする末吉の健気な気持ちが伝わり、個人的に胸を打たれました。
記憶を辿った結果、お母さんは末吉に対し、心の中で感謝の結論に至ります。「結局、末吉が一番私に付き合ってくれたんだな」と。

そして、お母さんは末吉に「私のこと忘れていいよ」「あとはお父さんと何とかするから、今までありがとう」と告げます。
しかし、末吉はこの言葉に対し、「自分は一生懸命やってきたのに、親父が帰ってくるからもう用済みなのか」「俺の5年間は何だったんだ」と激しくブチ切れてしまいます。
末吉は、お母さんのことが好きだからこそここまで頑張ってきたのだと叫び、売り言葉に買い言葉で「もう出てってやるわ」と家を飛び出します。
そして、この回の最後のト書きには、「これが母と交わした最後の会話だった」と記され、末吉の夜の夜道を走り去る姿が描かれて終了します。

今後の注目点と『住みにごり』の魅力
9巻のラストは、末吉がボロボロになり家を出るという衝撃的な展開で終わりました。
- 末吉はこれからどうなるのか
- 父親は本当に帰ってくるのか
- フミヤの“柊凪兄弟”の関係は?
- 姉・長月の役割はどう変わるのか
『住みにごり』は、家族の闇と歪みを描きながらも、一瞬だけ差し込む“笑”を描くのが非常に上手い作品です。
今回も、フミヤが見せたわずかな人間性や、母と末吉の愛情のフラッシュバックが、物語の重さの中で鮮烈なアクセントになっていました。
まだ読んだことのない方は、ぜひ1巻から読み進めてみてください。
その独特の世界観に、きっと引き込まれると思います。





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