#118 映画「正欲」ネタバレ感想編:あらすじから朝井リョウ原作との違いまで徹底解説
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映画好きの二人が稲垣吾郎と新垣結衣のダブルガッキー主演映画「正欲」を観た感想を話しています。
面白すぎて1時間以上話してしましました。この映画を見にいく前後にラジオがわりにお聞きください🙏
映画の原作は朝井リョウ先生の小説
映画の本編はこちら
目次
目次とチャプター
原作でも補完しつつ、ここから一部解説してきます。
以降ネタバレありのためご注意ください!
「正欲」のあらすじから見える原作との違い
映画のストーリー紹介はこちら
横浜に暮らす検事の寺井啓喜(稲垣吾郎)は、息子が不登校になり、教育方針を巡って妻と度々衝突している。
広島のショッピングモールで販売員として働く桐生夏月(新垣結衣)は、実家暮らしで代わり映えのしない日々を繰り返している。ある日、中学のときに転校していった佐々木佳道(磯村勇斗)が地元に戻ってきたことを知る。
ダンスサークルに所属し、準ミスターに選ばれるほどの容姿を持つ諸橋大也(佐藤寛太)。学園祭でダイバーシティをテーマにしたイベントで、大也が所属するダンスサークルの出演を計画した神戸八重子(東野絢香)はそんな大也を気にしていた。
同じ地平で描き出される、家庭環境、性的指向、容姿
映画「正欲」公式サイト(https://bitters.co.jp/seiyoku/)より様々に異なる背景を持つこの5人。だが、少しずつ、彼らの関係は交差していく。
一歩こちらが小説版のあらすじです。
あってはならない感情なんて、この世にない。
それはつまり、いてはいけない人間なんて、この世にいないということだ。息子が不登校になった検事・啓喜。
初めての恋に気づいた女子大生・八重子。
ひとつの秘密を抱える契約社員・夏月。
ある人物の事故死をきっかけに、それぞれの人生が重なり合う。しかしその繋がりは、"多様性を尊重する時代"にとって、
ひどく不都合なものだった――。「自分が想像できる"多様性"だけ礼賛して、秩序整えた気になって、
そりゃ気持ちいいよな」これは共感を呼ぶ傑作か?
目を背けたくなる問題作か?作家生活10周年記念作品・黒版。
新潮社「正欲」紹介ページ(https://www.shinchosha.co.jp/seiyoku/)より
あなたの想像力の外側を行く、気迫の書下ろし長篇。
原作では3人を中心に描かれてるのに対し、映画では5人の人物が中心に焦点が当てられているのがわかります。
原作との決定的な違い
原作との決定的な違いは、物語の構成です。
映画では登場人物の日常を描き、クライマックスである決定的な事件を迎えます。
一方、原作ではその決定的な事件が冒頭にきます。
最近話題になったキラーズオブザフラワームーンの原作と映画の関係と似ています。
こちらでも原作は冒頭で事件発覚〜捜査開始でスタートしますが、映画では後半で操作が始まります。
ちなみにある決定的な事件とは、佐々木佳道(磯村勇斗)と諸橋大也(佐藤寛太)が児童ポルノ所持の疑いで逮捕される事件です。
テーマは性的嗜好...の先にある共感と繋がり
タイトルだけを見ると個人の性的嗜好がテーマですが、真のテーマはその先にある「共感」や「他者との繋がり」です。
多くの人にとって、あまりにも当たり前すぎる性愛。それを題材にすることで、他者から決定的に理解されない(共感されない)人たちを描いています。
LGBTQといった対人への性愛だけでなく、モノや現象といった人以外への性的興奮を描いている点が、この作品の特異な点です。
人以外への性的興奮の例として例えば以下のようなものがあります。
- 動物に興奮を覚えるズーフェリア
- 巨大建造物に興奮を覚えるマクロフィリア
- 知性に興奮を覚えるサピオセクシャル
セクシュアリティとフェティシズムは一緒くたにできるものではありませんが、あくまで例としてご了承ください🙏
それぞれのキャラクターと役割
単純に切り取れる話ではありませんが、あえてキャラ付けすると以下の通りです。
- 寺井啓喜(稲垣吾郎):共感を拒む
- 桐生夏月(新垣結衣):共感を諦める
- 神戸八重子(東野絢香):共感を諦めない
作中では、これら登場人物の環境の変化と内面の変化が描かれています。
夏月はなぜ寝具店で働くのか
夏月には多くの人にある正欲がありません。それでもなんとか世間に溶け込もうとしています。
人間の3大欲求、性欲・食欲・睡眠欲。性欲はないが、睡眠欲はある。「睡眠欲は裏切らない」その気持ちで寝具店で働いています。
また同様に、
佐々木佳道(磯村勇斗)は、食欲を満たす食品メーカで働き、
諸橋大也(佐藤寛太)は、物欲に興味を持ち行動経済学のゼミに所属します。
性の発露が犯罪だったら
主要登場人物の性の対象は、特に犯罪に関わるものではありません。
一方で、中には犯罪になってしまうものもあります。現に作中では小児愛が原因で逮捕に繋がりました。
世の中には、自身の性の発散が"どうしようもなく”犯罪になる人もいます。そして、犯罪となっている以上、理解も共感もされません。私自身、想像はできても、同様に理解や共感をすることは難しいです。
そんな人物が登場するマンガがあります。
それが「稲中卓球部」でお馴染、古谷実先生の「ヒメアノ〜ル」です。
古谷実の「ヒメアノ〜ル」
この作品には、森田という連続サイコキラーが登場します。異常な殺人鬼として描かれる一方、作中では異常者に生まれてしまった森田の苦悩も描かれています。
人を絞め殺すことでしか性的興奮を得られない。森田は自身の性癖に苦しみ、常に孤独を感じています。
最終話「マヌケニンゲン」の一コマで、なんとも言えない余韻を残して物語は終わります。
「もう本当に悔しくて…その場で死にたくなった……泣いちゃったよ……」
構造だけ取り出せば、「正欲」で描かれる苦悩と何ら変わりありません。ただ、一方は犯罪で、一方は犯罪でなかっただけです。
まさに、稲垣吾郎演じる寺井啓喜が言う「世の中にいるバグみたいな奴」が森田です。
友達になりたいとも、関わりになりたいとも思いませんが、誰とも共感できない当事者の気持ちになると何とも言えない気持ちになります。
森田はこのあと裁判を経て、間違いなく死刑になるでしょう。死刑台の上で自分の人生を反芻しながら、何を思い絶命するのでしょうか。
前作を少し改変する形で映像化もされています。森田役を演じるのは元V6の森田剛さん。興味があればぜひご覧ください。
その他、映画のここわかんなかった!みたいな部分があればお気軽にご連絡ください!