#96 ジブリ映画「君たちはどう生きるか」感想編*警告後ネタバレあり:つまらなかった!と思った人に伝わってほしいいくつかの考察
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映画好きの2人が宮崎駿監督10年ぶりの新作「君たちはどう生きるか」について話しています。
警告後一部ネタバレしていますので、その点ご注意ください。
*音声内では「戦争」を「日中戦争」ではないかと推測していますが、空襲などの時代背景を考慮すると「太平洋戦争」と解釈するのが正しそうです。
目次
「君たちはどう生きるか」をなぜつまらないと感じるのか
宮崎駿監督は、アニメーション作家として、これまでエンタメ性を担保した作品を作ってきました。
ところが晩年に入り、お客さんが見たいものより、自分が描きたいイメージを優先してきました。
写実的な絵を描いていたピカソが歳を経るにつれて(一般人には)難解に感じる絵を描いていたように、宮崎監督も物語作家から芸術家へと変化していると言えます。
2008年の「崖のポニョ」以降、「風立ちぬ」その傾向は続いてきました。そのため、トトロやラピュタのようなエンタメ性の強い作品を好む人によっては、作家性が強く自伝的な「君たちはどう生きるか」が難解で退屈な作品に感じたのかもしれません。
背景が分かれば面白くなる
私は「君たちはどう生きる」大変面白く鑑賞しました。
しかし、宮崎駿監督の生い立ち、盟友高畑勲監督への嫉妬と羨望、スタジオジブリとアニメ制作に込めた思い、こういった背景を知っていたからとも言えます。
こう入った背景を含めて映画批評しておりますので、記事冒頭のリンクから聴いていただけますと幸いです。
教養がなければ楽しめない面白くない作品を作るな!
確かにそれはそうなのですが、残念ながら、古今東西、芸術というものはその傾向があります。
絵画、建築、文芸といった文化的な作品の一部は、確かに教養(背景知識)を必要とします。私自身、絵画はどうみたらいいか今だにわかりません。
さらに、どんなにエンタメ性の強い作品を作れる作家であっても、食うに困らなくなったり、自分の死期を悟ると、自己表現を優先させる傾向はあります。
日本映画界の巨匠黒澤明監督も、「七人の侍」や「椿三十郎」といったエンタメ作品を作る一方、晩年は「夢」のような難解な映画を作りました。
宮崎駿監督は誰もが認める日本アニメーション業界の巨匠です。氏が自己表現を優先させるのは最であり、それが許される数少ない人でもあります。
君たちはどう生きるかを少しでも面白がるために
「君たちはどう生きるか」を面白がるためには、宮崎監督を巡る歴史や人間関係を知る必要があります。
「君たちはどう生きるか」を面白がるためには、宮崎監督を巡る歴史や人間関係を知る必要があります。
ざっくり言えば、鈴木敏夫、高畑勲、息子宮崎吾朗をはじめとする後輩アニメーション作家。大きくは、この三者をとの関係が理解できれば大丈夫です。
動画でざっくり知るなら、ドキュメンタリー映画「夢と狂気の王国」。
鈴木敏夫プロデューサー視点で知るなら「天才の思考 高畑勲と宮崎駿」
息子宮崎吾朗との関係をしるなら「父と子の300日戦争〜宮崎駿×宮崎吾朗」
このあたりがオススメです。
ここから先は「君たちはどう生きるか」の解説として、劇中に登場したフレーズ「ワレヲ学ブ者ハ死ス」ついて考察してみます。
「ワレヲ學ブ者ハ死ス」の意味
物語の中盤で「ワレヲ学ブ者ハ死ス」というフレーズが登場します。カタカナをひらがなにすると「われを学ぶものは死す」となります。
この意味について考察してみます。
これに近しい言葉が、150年ほど前の中国の言葉にあります。
それが「我に似せるものは生き、我を象るものは死す(がににせるものはいき、がをかたどるものはしす)」です。
芸術家の斉白石(せいはくせき)の言葉とされています。
意味は「師匠の教えを守りながら創造を加える者は成長するよ。一方で、ただ形を真似するだけの者は大成しないよ」的な感じです。
このフレーズにアレンジして作ったのが、「われを学ぶものは死す」ではないかと考えています。
漢詩や漢文にして考える
一見あまり似ていないようですが、漢詩や漢文っぽくしてみると類似性が見えてきます。
斉白石(せいはくせき)のフレーズを関して表すと
「似我者生 象我者死」となります。
一方で、君たちはどう生きるか出てきた「われを学ぶものは死す」を漢詩にすると「学我者死」です。
「似我者生 象我者死」
「学我者死」
どうですか、かなり似たフレーズに見えてきませんか?
学ぶは真似る
「学ぶ」は「まねぶ」から来ると言われています。「まねぶ」とは「真似する」ことです。
そうすると
「われを学ぶものは死す」は「私を真似するものは死ぬ」となり。
そこから思い切って意訳してみると、
「私、宮崎駿の真似をするだけのクリエイターは大成しませんよ」と読むこともできます。
これは、クリエイター宮崎駿の超えていけ!と受け取ることもでき、宮崎駿監督から今まで関わってきた弟子たちに対する、激励メッセージだと捉えることができます。
一考察に過ぎませんが、物語全体を考えると、こう読めるなと思った意見です。
お役に立てると幸いです。
映画自体は十分オススメできる作品だったので、まだ見てない方は、夏休み映画としてぜひご鑑賞ください。
ジブリファンにとって唯一の希望はこれが宮崎監督最後の作品にならないこと
最後に、「君たちはどう生きるかの」スタッフロールを見ながら感じた話をします。
宮崎監督は、作画監督など、アニメーション制作において、現場で手を動かす段階を離れたように感じます。そして、宮崎監督のイメージを具現化できる非常に優秀なスタッフが周りにいることも証明されました。
それが意味するのは、アーティスト宮崎駿の復活です。もしかしたら、もしかしたら、これから宮崎作品の量産時代が始まるかもしれません。