#219 漫画「住みにごり」第10巻ネタバレ感想編:タバコの香りと全裸バレー

半年に一度のペースで単行本が出るたびに読んで語る、というのをずっと続けています。今回はついに第10巻。4月末に販売されました。

10巻を読んでまず思ったのは、「まさかこの巻が、ほぼフミヤのための巻になるとは」ということでした。前9巻では末吉くんが主役で、母子のエピソードに心をやられた人も多いはず。

ところが10巻では、軸が完全に兄・フミヤと父親に移ります。

9巻のおさらい

9巻の流れをざっくり整理しておくと、フミヤと柊凪(ひなぎ)のお兄ちゃんがちょっと仲良くなってきた、というのが一つの流れ。もう一つが第87話「母子」で、末吉くんとお母さんのエピソードがあり、なんやかんやあって末吉くんは家を飛び出します。

最後のセリフが「これが母と交わした最後の会話だった」という切ない台詞で した。

その一方で、久しぶりの父親の件として、阿波踊りかなんかの映像の中に踊っている父親の姿が映し出され、相変わらず若い女の子といい感じにしている様子が描かれます。そこで「家はわしのもんや!」とやるシーンが大好きなんですが、そういう流れで9巻は終わっていました。

#210 漫画『住みにごり』第9巻ネタバレ感想編:末吉の崩壊、兄弟の歪な関係、そして迫る親父の影

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花束と父の帰還

10巻は、末吉くんがいなくなった後の日常から始まります。兄のフミヤは自分のことしかしなくて、お母さんが1人で放置されているような状態。お姉ちゃんがちょっと心配して見に来てくれる、みたいな静かな日常描写が続くんですが、その日常が突然、スーツに花束を持った父親が玄関の前に立っているシーンで終わります。

父親の脳内では、その家を買った頃のフラッシュバックが始まります。玄関の前できれいに着飾って一緒に写真を撮った記憶。ただ、父親にはある確信がありました。許されるという確信です。

なぜかというと、家族がお母さん以外いない日にこっそり帰ってきたことがあって、その時に母親の寝言を聞いていた、という場面が前の巻で伏線として張られていました。

ぼんやりした映像だったので気づかなかった人もいるかもしれないけれど、枕元にいる父親みたいな場面がたしかにあった。そこで父親は確信を持ったわけです。

お前の罪を数えろ

玄関をガチャッと開けると、無表情で待つ母の姿があります。そこから問い詰めるシーンになるんですが、「そのバラなんや」「何本入っとるんや?」「12本です」みたいな流れになっていて、父親が自分の罪を数えながらバラを供えるような感じになっていきます。

「じゃあ七つの大罪から足していけ」と言われるんですが、七つの大罪が3つくらいしか出てこなくて、あとは不倫、飲酒運転、賭博みたいなところで埋めていくという、ちょっと笑ってしまうシーンになっています。笑えるんだけどゾッとするという、住みにごりらしい温度感です。

そして母親の中での腑の落とし方が面白くて、「許されないことも罰だけど、ずっとここにいなきゃいけないのも罰だよね」というもの。そこで父親の帰還が決まります。ジェダイの帰還なみの興奮がありました。

童貞を殺すセーター

9巻では「母子」がテーマでしたが、10巻では父親と兄・フミヤの話になります。だから、親父の過去のエピソードがフラッシュバックとして挟まれてくる。

例えば、親父がタバコを吸っていたら兄貴が吸いたそうにしていたので「吸ってよ」と渡したところ、おかんに怒られてバチバチ殴られている。そこへ親父が「お前何しとるんじゃ」ととどめのキックを入れる、という場面。あるいは、何の悪意もなく、兄貴の目の前にあった唐揚げを1個取っていく、というシーンもあります。

そのフラッシュバックから現代に戻ってくると、目の前にゴロゴロと唐揚げが盛られている居酒屋の卓がある。父親と兄貴が2人で居酒屋に来ているわけです。なぜか兄貴は童貞を殺すセーターを着ていて、「なんでだよ」という感じなんですが、これがじつは伏線として機能します。この後、童貞が殺されるので。高度な予言とも言えなくもないという。

「あの頃は、長男のお前の方が大事やった」

その居酒屋の場面が、10巻の一番の山場だと思っています。親父が、なぜか感動しながら「遅くなってすまん」と言い出す。そしてとどめを刺すように「お前も40歳になったから、もう親の責任は果たした」と続けます。要するに、感動の言葉を使いながら出て行けと言っているわけです。

さらに話題が変わって、「お前も末吉がいなくなって、ちょっとホッとしてるやろう」と聞く。これまでも描写があったように、兄貴が弟・末吉をいじめていたという描写が積み重なっていましたから。小指の場面とか、小学生ぐらいの頃の描写とか。

「なんか弟いじめてたの、俺わかってたよ」と言う親父に対して、兄貴は質問を質問で返します。「なんで止めなかったの?」と。その問いに対して、親父は普通のことを言うんですよ。「いい気持ちわかるな。あの頃は、長男のお前の方が大事やった」と。

このシーンが、今回一番触れました。兄貴の「えっ」という反応の表情とかは一切描かずに、さっと次のシーンに移るんです。だから読者が想像するしかない。大事にされていたのに、その期待に応えられなかったという罪悪感が兄ちゃんに生まれていても不思議じゃない。自分の悪事を黙って見逃すくらいの愛情を親父が持っていたわけで、その親父に40歳になってついに「失格」を言い渡された。今まではなんだかんだ「家にいていいよ」という存在だったのが、ここで正式に不合格をもらった、というシーンでもある。

その後、親父は「もう俺とお母さんの中で、お前は死んだ。生まれ変わったと思って新しい人生を生きてね」と言い、手切れ金15万円だけ渡して去ります。本気だと思った。ちなみに居酒屋の支払いはその15万から払わされるので、店員さんが「不便やなあ」と言いながら対応するというシーンが挟まれていて、そこでちょっと笑ってしまう。

タバコの嫌な記憶と、いい記憶

その回はまだ続きます。フミヤと柊凪(ひなぎ)のお兄ちゃんには「いつもの場所」みたいなものがあって、そこで柊凪(ひなぎ)のお兄ちゃんが「人生でタバコを吸ったことないから、初めて吸ってみたい」と言い出す。2人で一緒に吸うシーンになるわけですが、さっきのフラッシュバックで、親父とタバコの嫌な思い出があったじゃないですか。あれはたしかに嫌な記憶でした。

でも今度は、いい記憶もよみがえってくる。寝られなくてリビングに行ったら、窓開けてタバコを吸っている親父がいて。「寝れるのか」みたいな話をしながら、親父がタバコで輪っかを作ってポンポンポンと見せてくれるシーン。それと夜空が綺麗に重なって、「美しいやろ、夜はまだ明けてない」という言葉が流れる。

その記憶を思い出しながら、号泣するフミヤ。想像していたようなことが彼の心中で起きたのだとしたら、あのフラッシュバックと居酒屋のシーンがここで全部つながってくる。そして柊凪(ひなぎ)のお兄ちゃんが「これ以上苦い思い出は必要ないですね」とタバコを消すところでこの回は終わります。毎回こういう構成にやられてしまうんですよ。いい思い出もなかったわけじゃないから、という余白の使い方が本当に上手い。

全裸ビーチバレーと、柊凪

話はここで一旦区切れて、今度は柊凪(ひなぎ)ちゃんと柊凪(ひなぎ)のお兄ちゃんとフミヤの3人でキャンプに行く場面になります。カレーを作って食べる、というほのぼのした流れの中で、柊凪(ひなぎ)ちゃんは「仕事があるので先に帰ります」とフミヤに頭を下げて去っていく。今のところ柊凪(ひなぎ)ちゃんには、ちょっと異様なブラコンという以外には特に問題はないんですよね。彼女自身のモノローグでも「私はお兄ちゃんの恋人にも友達にもなれない。でも、妹は世界で私しかいない。だから大丈夫」という言葉があって、健全な整理に聞こえる。

キャンプ場に残った「ダブルアニキ」たちは、お互いの父親との暗い記憶を共有するほど深くつながっていきます。フミヤは「父親、昔は嫌いじゃなかったけど、今は殺したいと思ってる」とまで話す。自分を追い出した親父だから、そう言うのは自然かもしれない。暗くなってきたところで柊凪(ひなぎ)のお兄ちゃんが「ビーチバレーでもやりますか」と場を変えようとしたら、フミヤが「全裸ならいいよ」と条件を出す。なぜかというと「その方が楽しいじゃん」というシンプルな理由で、強く打つたびに一物がぷらんぷらんする感じが気持ちいいということらしく、まあ面白いかと言われたら裸の方が面白いかもしれない。

そこに、携帯を忘れた柊凪(ひなぎ)ちゃんが戻ってくる。茂みから覗いたら、マッパでビーチバレーをしている2人がいた。川がキラキラとして、2人のさまが美しいものであるかのようなシーンが流れる中で、柊凪(ひなぎ)ちゃんのモノローグが始まります。「また見たことない顔して。私がおったら、こんな顔できんかったやろうな。あってよかったな、お兄ちゃん、文也さんと出会えてて……」。ここまでは大丈夫だと思って読んでいると、

そのセリフの直後にクルーカット。「合わすんじゃなかった」。

嫉妬が爆発した瞬間で、柊凪(ひなぎ)ちゃんの出してはいけない本性がここでついにあらわになりました。でも次の瞬間にはスイッチが切り替わって、フミヤを誘惑し始めます。「お兄ちゃんを喜ばせようと思って文也さんに関わった。お兄ちゃんに与えたおもちゃのつもりだった。でも、そのおもちゃが自分を無視して遊ぶなら、取り上げるしかない」という論理です。サイコパシーではあるけれど、一応は筋の通った思考回路ではある。

そして柊凪(ひなぎ)のお兄ちゃんが口にした「妹がいたから、今生きてる」というセリフを、文也くんの口から聞いた柊凪(ひなぎ)ちゃんは「なんでそんな宝物みたいな言葉を、お前の口から聞かなあかんねん」と感じて、そこでフミヤの童貞を殺すことを決める。居酒屋での「童貞を殺すセーター」は、やはり予言だったわけです。

その後、柊凪(ひなぎ)ちゃんの家でフミヤは言葉攻めのような状態で手込めにされているような描写があります。肉体的接触はないけれど性的なもので縛られている、という感じ。ある種の奴隷状態ですが、フミヤの顔だけは幸せそうという。そして柊凪(ひなぎ)のお兄ちゃんの方は「今日も来ないなあ」と待ち続けているわけです。

森田は死んだ?その後どうなった?

そして10巻の最終話で、末吉くんと森田さんが戻ってきます。末吉くんが森田さんの家を訪ねようとしたところ、ちょうど出てきた森田さんの後ろを追う展開になる。森田さんが向かったのは、柊凪(ひなぎ)ちゃんがやっている交流会でした。柊凪(ひなぎ)ちゃんは当然、フミヤを奴隷として連れていく。

ここで4者が揃います。柊凪(ひなぎ)ちゃんの奴隷状態になっているフミヤ、柊凪(ひなぎ)ちゃんに呼ばれた新メンバーとして来た森田さん、その森田さんを追う末吉くん。進撃の巨人で全員が酒場に集合するあのシーンのような緊張感があります。

末吉くんだけはまだ部屋に入っていない状態で最後のシーンを迎えます。「森田、なんでここに入っていったんやろうな」と思いながらがさごそと荷物をあさり、「緊張するなあ、5年ぶりやからな。プロポーズする前みたいや、頼むぞ森田」と言う。その袋の中に包丁が入っている、というシーンで10巻は終わりです。

相変わらずの終わり方でした。でも確かに、ちょっと方向性が変わってきた気はします。これまでは家族内の話だったのが、外の人間も巻き込みながら動いてきた感じがして、家族ドラマとして一段落がつき始めているのかもしれない。

兄弟2人が、どちらも「道具」にされている

10巻を読んで思ったのは、兄の文也と弟の末吉が、どちらも誰かの目的のための道具にされているという共通点でした。フミヤは柊凪(ひなぎ)ちゃんのブラコン的な欲求のために使われている。末吉は、結婚まで考えていた森田さんに親父と会うための道具として使われていた。2人の関係性の決着はまだついていなくて、その兄弟の話をうまく他の伏線と混ぜながら終わらせれば、かなりいい終わり方になるんじゃないかと思っています。

お父さんも10巻ではちょっと老けて見えました。あのはげ方の進み具合が、時間の経過を教えてくれる。このペースだと、10巻から15巻あたりで終わる可能性も全然あるんじゃないかと感じています。

毎回この漫画は、ネタバレをくらいながら読むという謎の読書体験をさせてもらっています。語りを聞いてから読む、というのもなかなかできない経験で、それはそれで楽しい。11巻が出たら、また半年後にこういう話ができればと思います。

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