#189 漫画『住みにごり』8巻ネタバレ感想編:なぜ人は"残酷な物語"を好むのか?「名前のない病気」と「瞬きの音」謎の中毒性

皆さん、こんにちは!今回もよろしくお願いします。本日は、先日発売されたばかりの漫画『住みにごり』8巻を読んだので、その感想をお話ししたいと思います。

2025年5月末にリリースされた8巻ですが、半年ごとのペースで順調に刊行されており、連載誌の『ビッグコミックスペリオール』が月2回発行されていることを考えると、このスピード感も納得です。

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これまでの『住みにごり』をおさらい

8巻の内容に触れる前に、まずは7巻までの流れを皆さんとおさらいしましょう。7巻では、ついに父親が亡くなり第一部が完結。そこから兄・フミヤの存在感が圧倒的に増していきます。主人公である弟の末吉(すえきち)は、何とか兄を家から追い出したいと願い、「追い出し屋」に依頼します。しかし、追い出し屋とフミヤの攻防は、最終的に追い出し屋の敗北という意外な結末を迎えました。

そんな中、物語に新たな展開をもたらしたのが、新ヒロインポジションとして登場した柊凪(ヒナギ)さんです。これまでの『住みにごり』に登場するヒロインは、良くも悪くも強烈なキャラクターばかりだったので、柊凪さんのような純粋で天使のような存在は、物語に新鮮な風を吹き込んでいます。

7巻のラストは、フミヤが末吉の枕元に現れ、過去の出来事について話そうとする、という非常に不穏なシーンで幕を閉じました。末吉がもし過去を話せば「小指を折られる」といった話もありましたが、末吉の記憶には、フミヤが近所の友達をブロック塀のようなものでボコボコにしたという恐ろしい過去があるようです。しかし、末吉は結局、その口をつぐんでしまいました。


8巻を動かす三つの力学

今回の8巻では、主に三つの大きな力学が物語を動かしていると感じました。

  1. 末吉とフミヤの家族にまつわる話
  2. 新キャラクターの柊凪さんとフミヤの関係性
  3. 「追い出し屋」のその後の展開

もちろん、もっと細かく見れば他にもありますが、この三つの要素が物語の核を成しています。特に『住みにごり』の魅力である「ファミリー」「エロ(ここでは広義のラブという意味で)」「バイオレンス」という要素が、今回も巧みに盛り込まれていると感じました。


家族の闇、深まる認知症の兆候

まずは家族の話から見ていきましょう。8巻の家族パートは全体的に落ち着いた雰囲気で描かれています。皆ですき焼きを囲む懐かしい思い出のシーンが登場しますが、そのシーンが描かれることで、家族の過去と現在が対比されます。

不穏な空気は、お母さんが認知症のような兆候を見せ始めたことで漂い始めます。昔、お母さんが「末吉は人参食べられないのね、しょうがないわね」と言っていた記憶が蘇る一方、今度は末吉がお母さんに対して介護をするような描写が出てきます。

そして、極めつけは、お母さんが末吉に「あなたどちらさん?」と尋ねるシーン。この瞬間、一気にゾッとさせられました。

しかし、末吉はパニックになることなく、心の中で「まだ途中なんだ」とつぶやくだけ。この短いモノローグが、非常に文学的な深みを持っていると感じました。

この「まだ途中」という言葉は、家族の崩壊が進行中であるという意味にも、お母さんの認知症がまだ完全に進行していないという意味にも取れ、読者の想像力を掻き立てます。


柊凪さんとフミヤ、そして兄妹間の不穏な関係

次に、引きこもり支援の柊凪さんに関する展開です。柊凪さん自身は以前から少しミステリアスな雰囲気があり、彼女が所属する「引きこもり支援団体」も、追い出し屋のボスが絡んでいることから警戒されていました。

8巻では、柊凪さんとその兄、そしてフミヤが少しずつ仲良くなっていく様子が描かれます。フミヤと柊凪さんの兄がデパートの踊り場でベンチに座って語り合うシーンは、一見すると微笑ましいのですが、7巻まで誰ともまともにコミュニケーションを取れていなかったフミヤが、言葉を交わさずとも二人の間に友達のような関係が築かれていくのには、逆に強い不穏さを感じました。

しかし、物語はさらに衝撃的な展開を見せます。柊凪さんの兄が柊凪さんの歯ブラシを使ったり、一緒に入浴しているような描写が登場し、兄妹間に異様な関係性が示唆されるのです。

これは「シスコン」と「ブラコン」の関係性として解釈できますが、柊凪さんが兄を愛しているように見える描写には、読者も不安を覚えるでしょう。そして、末吉の家族にも、もしかしたら似たような兄妹間の関係性が存在するのかもしれないと、読者に思わせるような伏線も張られています。

末吉の姉である長月(なつき)さんも、「僕らの太陽だから」という感じで、シスコンのような話も出てきます。


末吉の精神状態の悪化と追い出し屋の闇

末吉の精神状態は、8巻でいよいよ壊れてしまいます。

ある日、姉の長月さんが遊びに来た際、家にいないはずの犬を散歩させている末吉の姿があります。隣人から「うちのワンちゃん知りませんか?」と聞かれた時の、末吉の反応は恐怖そのものです。

1巻の末吉と今の末吉はあまりにも違いすぎて、作者の描写力にはただただ驚かされます。

追い出し屋の社長に一言

そして、追い出し屋の危ない社長の危険な側面もさらに深く掘り下げられ、彼の過去も明らかになります。

末吉は追い出し屋の社長とファミレスで再会し、フミヤをもう一度追い出すことを提案されますが、末吉は「気力体力の限界なので、もうやめさせてください」と懇願します。しかし、社長は執拗に迫り、優しい言葉をかけながらも末吉を精神的に追い詰めていくのです。

この追い詰められた末吉は、ファミレスの壁に向かって全力で走り、壁を歩こうとして失敗し、倒れてしまいます。

皆が助けようする中、追い出し屋の社長は「もう超えてしまっていたのですね」とつぶやくのです。

このシーンは非常に衝撃的で、まるで別の漫画を読んでいるかのようでした。社長は自分の危険性を自覚しながらも、周りに合わせて行動しているように見えるところが、さらに不気味さを際立たせています。


8巻のラストと次巻への期待

8巻のラストは、フミヤが柊凪さんの家に遊びに行き、お風呂の時間になった際、柊凪さんの兄が柊凪さんと一緒に入ろうとするシーンで幕を閉じます。フミヤがそれを止めようとしますが、逆に柊凪さんから「なんでそういうこと言うの?」と詰め寄られます。この後の9巻で何が起こるのか、暴力的な展開が待っているのか、全く予想できません。物語の緊張感は最高潮に達しています。

『住みにごり』の魅力は、やはりフミヤの予測不能な行動によるハラハラ感だったと改めて感じました。しかし、最近は彼の行動原理が少しずつ理解できるようになってきて、その分、最初の頃のような純粋な恐怖は薄れてきた気もします。


宮川サトシ「名前のない病気」と「瞬きの音」

最近、『住みにごり』に似た雰囲気を持つ漫画が登場したのをご存じでしょうか。宮川サトシ先生の『名前のない病気』という漫画で、2025年2月に第1巻が発売されました。

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『住みにごり』がエンターテイメントとして完成されつつある一方で、『名前のない病気』の方がより救いのない物語の印象です。こちらも長期の引きこもりの兄を題材にしており、非常に不穏な空気をまとっています。

また押見修造先生の最新作「瞬きの音」も兄弟をテーマに描いています。時代は今「兄弟姉妹」ブームなのでしょうか。

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これらの作品を読んで、かつてテレビ番組「ザ・ノンフィクション」で見た、引きこもっている女性の顔が驚くほど幼く見えたという話も思い出しました。

人は残酷なのが見たいんだよ

いつも不思議に思うのですが、なぜ人はこのような辛い物語を読みたがるのでしょうか。『住みにごり』も謎の中毒性があり、描かれていることは決して楽しいことばかりではないのに、なぜか人気があります。

読後感は決して心地よいものではありませんが、それでも「なんて文化的な営みをしているんだろう」と思いながら、いつも単行本を閉じてしまいます。

今回の『住みにごり』8巻も、期待を裏切らない「芸術的な苦味」がありました。ハズレがないので、ぜひ皆さんにもKindleなどで読んでいただきたいです。また、もう少し似た世界観の作品が読みたいなら、『名前のない病気』もおすすめです。『ケーキが切れない非行少年たち』のようなドキュメンタリーに近い雰囲気を感じるかもしれません。

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日本のポップカルチャーへの考察

最近、日本のポップカルチャーについて面白い記事を読みました。なぜ日本のコンテンツがこれほど素晴らしいのかという考察で、結論は「日本は日本人向けにコンテンツを作っているから」というものでした。

マット・アルト「日本のポップカルチャーについて:日本はキミらのことなんかク○ほども気にしない」(2025年5月17日) – 経済学101

「アメリカのポップカルチャーは衰退しつつある」説をとるとしよう.では,どうして今,日本はアメリカと真逆の経験を…

海外の視聴者を意識せず、純粋に日本人に向けて作っているからこそ、宮崎駿監督の作品のようにピュアで素晴らしいものが生まれるのかもしれません。政府主導のクールジャパン構想のような、露骨なプロパガンダ的な作品は、やはり見ていて面白くないと感じます。もちろん、政治的なメッセージが含まれていても良いですが、それが全てになってしまうのは苦しいですね。

面白い作品があれば、きっと皆さんに教えたくなると思うので、もし私が何も言わなかったら、そこまでじゃなかったんだなと思ってください(笑)。最近はオンラインコンテンツに触れているのですが、今更ながら『ミッション:インポッシブル』シリーズを最初から見返しています。『デッドレコニング PART ONE』まで見返したのですが、やはり「分かるけど分からない」という感覚ですね。ストーリーは理解できるけれど、なぜそうなるのかが完全に腑に落ちない。

少し話が逸れてしまいましたが、おかげさまで『ミッション:インポッシブル』の動画も多くの方に見ていただいているようです。特にトイレに行くタイミングについては非常に有益な情報を提供できたと思っています!今後も頑張っていきましょう。本日は以上です。ありがとうございました!

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