#224 映画「スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ」ネタバレ感想編:パニッシャーとの共闘、10年越しのスコーピオン、そして次回作に繋がる最後のバスの行方

公開されたばかりの「スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ」を、初週の週末に劇場で観てきました。

どちらの劇場も混んでいます。普段なら貸し切り状態になっているような場所が、この日は満席でした。

3D上映など、フォーマットの選択肢も妙に多い。見せ方から力の入り方が伝わってきます。以下、ネタバレを含みます。

「ノー・ウェイ・ホーム」が発散なら、今回は収縮だった

面白かったのは間違いないとして、それでも1個前がヤバすぎた、という感想は残ります。

あのときアメリカの劇場で観ていて、例の3人が集合するシーンでは会場全体が沸いていました。うおー、という声が上がるくらいです。

発散と収縮でいえば、前作は明らかに発散型でした。一度バッと開いてみせる作りです。それに対して今回は収縮系だったのだと思います。アクションももちろんありますが、それよりも人間ドラマとして、ピーターの成長を追いかける一本になっていました。

物語の始まりは、前作のラストの延長線上です。あの結末が私はすごく好きで、いろいろあったけれど、自分が犠牲になることでみんなが幸せになるなら、とぐっとこらえる。なんて大人なんだ!と思いました。

ひとり孤独を抱えながら、それでもみんなのために一生懸命頑張っている。ところが、そうやって抑えつけていた気持ちがあふれ出してしまう。じゃあ、それとどう向き合うのか。あんまり見たくないような自分の一面まで含めて、ちゃんと飲み込む。

その飲み込むという行為自体が成長の糧になって、文字通り新しい自分に生まれ変わる。

表面的なテーマの層としては、そういう作りでした。

フランク/パニッシャーという、選ばなかった自分

正直、あの人は誰なのか、と思った人も多いのではないでしょうか。ジョン・バーンサル演じるフランク・キャッスル、パニッシャーです。

荒くれで、重機のようなマシンをぶっ放すおじさん。数年前にNetflixで単独作品があり、ひとりの男がマフィアの抗争に巻き込まれて復讐する話です。デッドプールの1作目にかなり近い感触があります。

ただ、今回のフランクは妙にスパイダーマンと相性がいい。

彼は、自分の中にある負の感情を、そのまま暴力として体現してしまう人間です。怒りがあるなら、撃つ。一方でピーターのほうは、同じように怒りを抱えているのに、それを正義のために抑え込もうとしている。

作中でも「もうやっちまおうぜ」という戦略を取るフランクを、「いやいやいや」となだめているスパイダーマン、という構図がずっと続きます。

つまりフランクは、共闘してくれる頼れる大人というだけの存在ではありません。ピーターが選ばなかった生き方そのものです。

抑え込むか、発散するか。同じ怒りを持った人間が、目の前で別の答えを実演し続けている。だからあの2人が並ぶ画は、ただの共闘には見えないのだと思います。

スコーピオンが10年越しに帰ってきた

なぜここでスコーピオンが出てきたのか、という話もしておきたいところです。

伏線としては、実は「ホームカミング」にすでに出ています。記憶が正しければ刑務所のシーンで、サソリの入れ墨が入ったキャラクターが登場して、匂わせるだけ匂わせて終わっていた。

あのときはバードマンことお父さんがヴィランで、刑務所に入ったときにちょっといたキャラクター、それだけの出番でした。それが同じキャストのまま、10年越しに帰ってきています。

今作の敵と最後のバス

今回の敵は、いろんな人の精神を渡り歩いていく相手です。あまり予習せずに予告編だけ観ていった状態だと、正体は伏せられたままでした。ふたを開けてみれば、若い女の子だった。強力なテレパス能力者、という説明のされ方だったはずです。

クライマックスの能力の使い方は、チートすぎるだろうという感想も出るくらいで、暴走といえば暴走なのですが、あそこはあれで大変な構造になっていました。

それ以上に引っかかったのが、彼女の最後です。公園から立ち去って、バスに乗る。窓際に座って、外の景色が流れていく。そこからバスを上から撮ったショットで終わります。あの街並みは郊外です。

天才ハゲことプロフェッサーXのいる、あの学園。「恵まれし子らの学園」に向かっているのではないか。そう言いたくなるくらい露骨な目配せでした。もっとも、行き先が学園だと画面の中で明示されるわけではありません。ここは完全にこちらの読みです。

敵の名はジーン・グレイ

彼女の名前はジーン・グレイ。公開まで伏せられていた配役で、観ている最中はその名前がX-MENのあの人だとまったくピンとこなかった、という反応もありました。まさかここでX-MENと軽くコラボするような形になるとは思っていなかったので、気づいていれば「おいおい、嘘だろう」と盛り上がれたのに、という悔しさも残ります。

ジーン・グレイといえば、かつてX-MENシリーズの若返りを図った時期に、彼女を中心にした「ダーク・フェニックス」という映画がありました。ジーン・グレイで検索すれば、Xでたくさん出てくるあの子、という認識になるくらいには主要メンバーのひとりです。

そして今回のジーンは、これ一本で終わる客演ではありません。セイディ・シンクは今後のX-MEN単独作でも同じ役を演じることになっていて、その作品は2028年の公開が見込まれています。年末には「アベンジャーズ:ドゥームズデイ」が控えていて、そこにはフォックス版のX-MENの面々が登場する。

つまりミュータントをめぐる流れは、これから何年かかけて組み上がっていくところです。

記憶は戻らない。それでもピーターは報われる

前作は、ある種の悲惨な形で終わっていました。みんなが自分を忘れてしまった。そんな悲しい世界があるのか、というところからのスタートです。

そのうえで、今回はきれいな着地を見せたと思います。

結局、みんなの記憶は戻りません。それでも、地道にコツコツと誰かのために活動していれば、それは報われる。甘すぎず、厳しすぎない終わり方です。

好きなシーン

あえて良かったシーンを挙げるなら、MJとの会話シーンです。

ひとつは、パニッシャーのアジトに行ったときの場面。ピーターが制御装置をいじって作業していて、MJはベッドに寝転がっている。あそこがなぜ良かったのかと考えてみると、表情なんです。

この映画、前半のピーターはほとんど笑っていませんもちろん軽く口角を上げるくらいはするのですが、全体的に頑張ってはいるのに、心からは笑っていない。

その前半があったうえで、あの場面で初めて、ピーター・パーカーがただ楽しそうに笑って喋っている。

久しぶりに3人で

もうひとつは、3人が部屋に集まる場面です。なぜか奥でスター・ウォーズのエピソード5が流れていて、みんなでXウィングを組み立てている。記憶はないけれど、なんだか自然だよね、という空気の目配せがある。

1、2、3のトーンが軽やかに揃っていて、たわいもない、どうでもいい日常の話をしている時間でした。いいシーンだったと思います。

クライマックスからは、病院のシーンを挙げる人もいます。ピーターが絶命しかけて、ぎりぎりのところで助かる。そこでパニッシャーがスパイダーマンのマスクをかぶり、スパイダーマンのふりをして、見舞いに来ているニューヨーク市民に手を振っている。その脇を、当人が歩いていく。

これだけの人が自分を応援してくれていたのだ、と気づく場面です。ありきたりといえばありきたりかもしれませんが、撮り方が良かったです。

学生スパイダーマンから、社会人スパイダーマンへ

今回のタイトルは、明らかにリブートを図っていると思っています。

記憶をリセットすることで、作品そのものも人間関係も一度リセットされてしまう。友人たちとの関係は、構築されているようで構築されていない。まっさらな状態に戻ったところから始まっています。しかも全員が大学を卒業している。ここからいよいよ、学生スパイダーマンではなく社会人スパイダーマンを描くタイミングです。

個人的には、4、5、6で新しい3部作を作るのかな、と予想しています。さすがにそれで終わりだろうとも思っていますが。

最低限「ノー・ウェイ・ホーム」は見ておこう

全部を追いかけるのが大変という人は、最低限、前作の「ノー・ウェイ・ホーム」だけでも押さえておくと、人間関係がなんとなく見えてきます。逆に言えば、ここから観てもいいですよ、とは言いにくい。

前提を知っているかどうかで、受け取り方がずいぶん変わってしまう作品です。

廃れたゲームのことを、最近よく考える

昔はスパイダーマンといえば、ひとつの映画でした。それが今や、ずいぶん大きな作品になっています。観る側の期待もどんどん膨らんでいて、観に行く前日の気分からして違う。

最近、かつてはすごかったのに今は廃れてしまったゲームのことをよく考えるんです。スターオーシャン、ブレス オブ ファイア、幻想水滸伝。小さいころには大きなムーブメントになっていて、でも今は姿形もありません。

面白いものを作り続けなければ廃れてしまう。

裏を返せば、いろんな人がスパイダーマンを大事に育ててきた結果が、今のこの規模なのでしょう。1本作るのにかかるカロリーはかなり高いはずなので、作り手にはぜひ頑張ってほしいと思います。

歴代スパイダーマン興行収入との比較

ポッドキャストを話している時点では、初週の週末すら終わっていません。感想も出始めたばかりで、興行的にどのくらい成功しているのかは、これからです。

とはいえ、だいたいのところは初週から読めます。もちろん尻上がりになることもありますが、初週でこのくらい行けば全体でこのくらい、という見通しは立つものです。

その噂は、収録から10日ほどで数字になって返ってきました。北米の初週末3.6億ドルは、エンドゲームの3億5,710万ドルを上回って歴代1位です!

公開6日で世界10億ドルを突破し、12日間で16.7億ドルまで積み上げています。歴代シリーズと並べると、その異常さがはっきりします。

作品公開年監督製作費北米海外世界興収倍率
スパイダーマン2002サム・ライミ1.4億4.1億4.2億8.3億5.9倍
スパイダーマン22004サム・ライミ2.0億3.7億4.2億7.9億3.9倍
スパイダーマン32007サム・ライミ2.6億3.4億5.6億8.9億3.5倍
アメイジング・スパイダーマン2012マーク・ウェッブ2.3億2.6億5.0億7.6億3.3倍
アメイジング・スパイダーマン22014マーク・ウェッブ2.0億2.0億5.1億7.1億3.5倍
ホームカミング2017ジョン・ワッツ1.8億3.3億5.5億8.8億5.0倍
ファー・フロム・ホーム2019ジョン・ワッツ1.6億3.9億7.4億11.3億7.1倍
ノー・ウェイ・ホーム2021ジョン・ワッツ2.0億8.1億11.1億19.2億9.6倍
ブランド・ニュー・デイ2026デスティン・ダニエル・クレットン2.3億6.6億10.1億16.7億7.4倍

※単位はドル。ブランド・ニュー・デイは公開12日目、2026年8月11日時点の数字

表を眺めていて面白いのは、この並びが普通のシリーズと逆の形をしていることです。ライミ版で5.9倍から3.5倍へ落ち、ウェッブ版のリブートで3.3倍まで沈み、そこからMCU版が5.0倍、7.1倍、9.6倍と右肩上がりに跳ねている。たいていの長寿シリーズは後半で息切れするのに、これは同じ主人公を3度作り直して、3度目でいちばん儲かるようになっています。

ノー・ウェイ・ホームの19.2億ドルは、過去のスパイダーマン俳優を全員呼び戻すという一度きりの仕掛けで叩き出した数字です。それを、仕掛けなしの一本が追いかけている。

北米は史上初の10億ドル到達も見えてきていて、フォースの覚醒が持つ9.4億ドルという壁が本気で危ない位置にいます

続きは、この夏と秋に

このあとの予定としては、「オデッセイ」と「ルックバック」が9月11日に日本で同時公開。

「ディスクロージャー・デイ」は今のところ10月1日で、だいぶ伸びました。

ワルプルギスの廻天は8月末です。前作がすごいところで終わってから、13年の時を経ての続編になります。

秋には「踊る大捜査線」もありますが、北米では観られないと思います。

そして「ビヨンド・ザ・スパイダーバース」が2027年6月18日。

トム・ホランドと一緒に歳を取ってきた人へ

トム・ホランドも大人になったな、という感想が何度も出ました。10年前は若い、キャピキャピしたスパイダーマンでした。

それまでのスパイダーマンが20代から始まっていたのに対して、あえてティーンエイジャーから始めるという選択をしていた。つまり、キャピキャピから始まって落ち着いていく、大人になっていく過程そのものを映画にしたかったのだと思います。

だとすれば、制作者の意図通りです。大人になったな、というのはちょっと苦い感じもする言い方ですが、いい塩梅でした。

誰に一番刺さるかといえば、20代の人だと思います。トム・ホランドと一緒に成長してきた世代です。

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