#226 小説「クララとお日さま」ネタバレ無し予習編:映画予告編を見る前に読んでほしい!カズオ・イシグロがあえて書かなかった面白さ
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カズオ・イシグロ。ノーベル文学賞作家で、名前は知っているかもしれません。でも、作品を読んだことがあるかと聞かれると、ちょっと微妙かもしれません。
自分もその一人なので、今回は2021年に出た「クララとお日さま」を読みました。
結論から言うと、とても面白かった。そして、できれば今のうちに読んでほしい一冊です。理由はシンプルで、もうすぐ映画が公開されるから。この記事はネタバレなしの予習編として書いています。
意外と読まないカズオイシグロ
「私を離さないで」なら、映画か、綾瀬はるかさん主演のドラマで触れた人もいるでしょう。「遠い山なみの光」も、タイトルくらいは聞いたことがあるはずです。
それでも、原作の小説を開いたことがあるかというと話は別です。イシグロは、名前だけが先に有名になっている作家なのかもしれません。
「クララとお日さま」は、ノーベル賞受賞後に初めて出た長編です。発売からもう5年ほど経っていて、最新作という感じはしません。あらすじを見ると、AIと少女の友情物語と書かれています。
ただ、読み終えてみると、その一言には到底おさまらない手触りが残りました。
舞台は近未来
舞台は近未来。といってもガチガチのSFではなく、今と地続きの未来です。体感では50年後くらい。100年先まではいかない距離感です。中国でヒト型ロボットのスポーツ大会が開かれるような時代に、この設定はもう絵空事には見えません。
面白いのは、主人公のクララが、今のAIから想像するような全知全能の存在ではないところです。インターネットに繋がっている気配がない。スタンドアローンで、知識は驚くほど少ない。それなのに、作中では知能の高さがはっきり描かれます。
このアンバランスさが、クララという存在の不思議な魅力になっています。
クララはトイストーリー5後のジェシー?
クララに一番近い存在を挙げるなら、「トイストーリー」のおもちゃたちです。
行動原理は、持ち主のために自分に何ができるか。その一点だけで、最初から最後まで貫かれている。もう信仰と呼んでいいくらいの一貫性です。知能が高いぶん、その健気さがかえって不憫に映ります。
無理やりたとえるなら、「トイストーリー5」のラストで悟りを開いたジェシー。あのジェシーをもう少し冷静にして、お育ちのいい子にした感じが、クララです。
設定だけ聞いたときは、「アルジャーノンに花束を」のように知能が変化していく話を想像していました。
話は全然違いましたが、雰囲気は似ていたかもしれません。
選ばれる日を待つAF
始まりの舞台は、アンドロイドを売るお店です。クララは店頭に並び、誰かに選ばれる日を待っている。
お手伝いロボットが店で買える時代と聞くと、ゲームの「Detroit: Become Human」を思い出す人もいるかもしれません。ただ、あちらはAIの反乱を描いた物語。こちらの温度感は、まったく違います。
カズオイシグロはあえて書かない
この本を映画より先に読んでほしいのは、語られていないことが多い小説だからです。しかも、その語らなさが抜群にうまい。
クララがどんな姿をしているのか。どんな街で、どんな光の中にいるのか。小説はほとんど指定してきません。渡されるのはヒントだけで、残りは読み手が自分の頭の中で組み立てることになります。
だから、映画のビジュアルをいきなり受け取ってしまうのはもったいない。映画本編の前はもちろん、できれば予告編を見る前に読んでおいてほしいくらいです。
予告編のクララは、自分のクララと別人だった
自分は小説を読み終えてから予告編を見ました。頭の中にいたクララとお日さまは、映像とはまるで別物でした。
映画が間違っているという話ではありません。同じ文章から、人によってこんなにも違う景色ができあがるのかと驚いたんです。自分だけの最初のクララを持てるのは、先に読んだ人だけの特権だと思います。
米国は2026年10月公開、日本公開は未定
映画はアメリカで2026年10月に公開されます。予告編もすでに出回っています。
ところが、日本での公開日はまだ発表されていません。カズオ・イシグロの作品なのに、と少し拍子抜けしました。興行的に厳しいと見られているのかもしれません。
勝手な予想ですが、日本では2027年の春ごろ、ミニシアター系での公開になるんじゃないかと思っています。キャストはかなり豪華なので、もっと大きな規模で来てほしいところですが。
イシグロ本人の英語も聞いてみてほしい
作品とは別に、カズオ・イシグロのインタビュー映像もぜひ見てみてください。顔立ちは日本人なのに、話すのはとても美しいイギリス英語。そのギャップに、不思議な感覚を覚えます。英国の陰と陽でいえば、陽の側、美しい英国を体現しているような話しぶりです。
名前と見た目のせいで、日本人の自分たちはつい謎の親近感を抱いてしまいます。でも本人は、自分のアイデンティティは完全にイギリス人だと語っています。日本にルーツはあるけれど、それはあくまで背景だという言い方です。
ラストの曖昧さを、どう受け取るか
読み終えて一番心に残っているのは、ラストです。
多くのことが、最後まで曖昧なまま置かれています。その曖昧さを自分の中で追いかけていく過程に、じわじわと切なさが込み上げてくる。この感覚は、実際に読んで味わってほしいところです。
映画がこの曖昧さをどう映像にするのかも、気になっています。会話劇が中心の作品なので、アクション映画のようにはいかないはずです。
読む前は、こういう人間を描く物語はきっと愛の話に着地するんだろう、と予想していました。読み終えた今、その予想は外れていなかったと思います。ただ、それが友情なのか、親子の愛に近いものなのか。その揺らぎこそが、この小説の読みどころです。
そしてもう一つ。気持ちよく終わらせてはくれない、ということだけは先に言っておきます。読み終えたあとに残る感情の正体については、ネタバレ感想編で。

